『天気の子』感想

 色々思ったことを。ネタバレも多少あります。

占い師

 あの野沢雅子さんの存在がその後のストーリーを一貫して象徴している、というかほぼあらすじそのまんまを言ってしまっている。「晴れ女にはお稲荷さんの、雨女には竜神の~」のくだりで「あっそういう感じの話なんですね」と世界観をスッとまとめ、「天気にする能力、使いすぎたらヤバいんじゃない?」と漠然と想像してしまう視聴者の想いを「ヤバいで」と明言することで今後起こるであろう悲劇を確定させる。

最初から最後まで「不安」

 帆高は家出少年である。居場所もなければ金もなく、雨の降る東京をさまよい歩く。怪しいおじさんに拾われてしばらくは多少よかったが、それでも「今後どうしていくんだ?」という不安は拭えない。銃を拾ったのも不安要素でしかない。そして案の定、それをきっかけに話がさらに不穏になっていく。
 陽菜も同様。そもそも親がいないというところに始まり、晴れ女稼業でちょっと元気になるが、先述のとおり能力を使うとヤバいことは最初からほぼ確定的に示されているので、作中の彼らが無邪気に喜んでいるのを尻目に視聴者はそれが仮初の平穏であることを察してしまう。「非日常に触れてしまったことで日常が崩壊する」作品は結構あるが彼らは最初から日常がぶっ壊れている。あまりに登場人物の家族が死んでいるので「ダブルクロスか?」とも思った*1
 一度転落してからはどうしようもないの連続である。妙に優秀な警察から逃げるシーンのもうダメ感。最初に見つかったときの「公妨!」にはちょっと笑ってしまった。そもそも彼らには最初から負い目があって、捕まえに来る大人たちの方が「正」なわけだから、やきもきする展開ではあるが、「まあそうなるわな」という納得もある。

箱庭モノ

 とにかく東京の話。なぜか雨が止まないのも東京、豪雨で沈むのも東京。東京都心以外の話は帆高の故郷である神津島くらいしか出てこない*2。天気予報を見ると群馬とかあの辺も結構ヤバいっぽいのだが。これはつまるところ「仮面ライダー剣の世界ではアンデッドが自宅と同志社大学の間くらいの距離感でしか出てこない」とかそういう感じの話である。舞台以外の描写はしないし理由も特に描かれない。
 この展開、妙に優秀な警察に追われる流れとかも含めてどことなくラノベ感がある。箱庭で大人と戦うジュブナイルもの。王道だ。

マルチエンド感

 占い師の下りでもあったが、その後の展開をなんとなく予想させるような作りにすることで無数のif展開を脳内に生み出す作用があるのかもしれない。行政に目をつけられて大舞台で晴れ女能力を使用しTVに映ってしまった場面では「能力に目を付けた何者かに狙われる展開くるか!?」と思ったし、最後の依頼人のところに帆高が1人で行ったシーンでは「帆高が代わりに人柱になって『晴れ』の能力を受け継いだのか!?」と思った。
 あと天気が荒れに荒れて雪まで降り始めた辺りで「天気と“繋がってる”ってことは陽菜の心境が天候に反映されるってことなんじゃないのか?ここ最近ずっとひどい雨なのは陽菜が落ち込んでいるからでは?」みたいな予想が鎌首をもたげてきて「陽菜を幸せにすれば天気も良くなってトゥルーエンドや!!!」とか考えたがそんなことはなかった。

最後に

 『君の名は。』がヒットしたからって観に行った人をふるいにかける作品!みたいな下馬評だったけどやはりインターネットは信用なりませんね!言うほど人を選ぶ感じではなかったように思う。理解度には差が出るだろうけども。

*1:ダブルクロスという作品において家族の死はポピュラーなキャラメイクのフックのひとつである。

*2:神津島も東京都ではある。